50.結婚記念日
夕方ベルタの弟一家がやって来た。彼は背が高くてハンサムだった。奥さんもモデルのような美人で、2人ともとても気さくでいい人達だった。2人には人形のように美しい娘がいた。11歳でまだ子供だが、今までこんなきれいな女の子を見たことがない。彼女は恥ずかしそうに挨拶をした。
これからベルタの両親の家に行くから乗れといわれ皆で彼のピックアップトラックに乗り込んだ。ダミアン、ベルタ、僕の3人は荷台に乗った。結婚記念日のお祝いがあるそうだ。十数分ほど走っただろうか、車が大きな門を抜けて停まった。ダミアンが家を案内してあげるというので2人で荷台を降りた。2階建てのその屋敷には廊下を挟んでいくつか部屋が並んでいた。そのうちの1つに入ってみた。ホテル並みの豪華さだと思って見ていると、この建物は召使いの宿泊施設だよ。とダミアンが言った。え、と聞き返すと。これは召使いが宿泊するための建物で、来客用の寝室としても使っていると言った。すごいねというと、ベルタのお父さんは金持ちなんだとさらりと言った。
母屋は映画やドラマに出てくるような豪邸だった。まさにお屋敷といった感じだ。玄関を入ると吹き抜けの広い玄関ホールがあり階段が二階に通じている。何部屋あるのか見当がつかない。ホールを抜けると奥が広間になっており大勢の客が集まっていた。親戚の人たちだそうだ。ベルタがご両親に僕を紹介してくれると2人とも優しそうに微笑んで、「来てくれてありがとう」と言った。料理は豪華で、とてもおいしかった。何人かの使用人が優雅に飲み物を注いでくれてまるでホテルのレストランのようだ。
驚いたことには楽団が2人のために演奏をしていた。パーティのために呼んだのだそうだ。ベルタの親戚は皆僕を友人として大切に扱ってくれ、同時にとてもフレンドリーに接してくれた。とても楽しかった。そのうちの1人が何かリクエストをしろといってくれた。といってもメキシコの曲はベサメ・ムーチョぐらいしか知らないと言うと、すぐに演奏が始まった。皆僕のほうを見て微笑んでいる。いい曲だと思った。
帰る時ベルタのお父さんが僕を抱きしめて言った。「今日はありがとう。ここはお前の家だ。いつでも好きな時に帰っておいで」