⒘地下鉄
遅い朝食というべきか早めの昼食なのか、とにかく腹ごしらえをしようと思い近くのデリへ入った。店は多くの客で賑わっていた。クラムチャウダーとピザ一切れをカウンターで買い、窓際の席でガイドブックを見ながら今日の予定を考えた。まずはホテルを探し、その後自由の女神に行こう。自由の女神はバッテリーパークというマンハッタンの突端にある公園から船に乗るのか。そこまでは、せっかくだから地下鉄で行ってみよう・・・。などとざっと行動計画を立てた。窓の外を見ると多くの人が行き交っている。皆歩くのがとても速い。
ミッドタウンの「ディプロマットホテル」に空き部屋を見つけチェックインした。古くて小さなホテルだが、タイムズスクェアにも近く立地がいい。せっかくニューヨークに来たんだから、便利な場所に泊まって動き回ろうと思いここに決めた。ここなら歩いてミュージカルも見に行ける。荷物を置くと、早速地下鉄の駅に向かった。悪名高いニューヨークの地下鉄である。少し怖い気がしたが、乗ってみたかった。話のタネにもなるし。
駅に着くとトークンという乗車用のコインを購入して改札を抜け、ホームで電車を待った。ホームは暗く、床に新聞紙やごみが散らばっていて汚い。電車を待つ乗客もあまりいない。何となく恐ろしげな雰囲気だ。清潔で明るい日本の駅とは大違いだ。そういえば、駅のトイレは安全の為コンクリートで塗り固めてあるとガイドブックに書いてあった。
びくびくしていると電車が来た。落書きだらけだ。この電車はハーレムを通る電車のようだ。路線により車輛の汚さに差があると聞いたことがある。電車に乗ると内側も落書きだらけだった。電車には数人の乗客がいた。きれいな若い白人の女の人もいる。思ったより普通じゃないか。少し安心した。日本から旅行に来たんだといって、その女の子に記念写真を1枚撮ってもらった。
しかし安心したのも束の間、しばらくするとほとんどの乗客は降りてしまい、薄汚れた感じの黒人のおじさんと2人きりになってしまった。しかもこのおじさん、さっきからぶつぶつ独り言を言い続けている。不安になって、停車予定駅と実際の停車駅をずっとチェックし続けた。すると、止まる筈の駅を電車が通過したのに気付いた。その後電車は次々と駅を通過し、止まる気配がない。どうしたことだろう。電車を乗り間違えたのではないか。自由の女神に行く電車の乗客がこんなに少ないわけはない。僕の頭に以前何かで読んだことのある、地下鉄を乗り間違えて危険な場所に迷い込んだために犯罪にあった人の記事が浮かんだ。えらいことになった、と焦っていた時、電車はバッテリーパークに到着した。電車を降りて表示板を見ると、電車には〝RAPID(快速)″と書いてあった。びくびくしていると何でも恐ろしく感じるものだ。少し恥ずかしかった。
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